2016年11月9日水曜日

【展示作品について】
アドベンチャーレースの取材歴は20年になりますが、数年前から海外のアドベンチャーレースの取材をするようになりました。
 アドベンチャーレースは短いものは1日、長いときには1週間近くをかけて、時には数百キロを移動するチームレースです。1チームは4人。レースはトレッキングやマウンテンバイク、カヤックなどさまざまな人力による移動手段を取り入れて行われます。
 このアドベンチャーレースにはコースがありません。地図に示されたチェックポイントを、地図を読みながらつないでいきます。チェックポイントまでのルートは自由です。道があれば道をたどっても良いし、山の中を一直線に突っ切る力があるなら、それでもいいとされています。自分たちのチームの総合力を判断して、最適のルートを見つけ出していくことが成績を左右します。
 しかしこれは体力や技術の競技ではないと思っています。複数の競技をこなせる強い仲間を見つけ、チームを組み、練習し、状況を判断しながらルートを決める。ほぼ休まずに数日を競うことになるので仮眠や休憩のタイミング、補給の受け方、チームメンバーの体調など様々なことに気を配りながらチームがひとつになって進んでいかなくてはなりません。けれど、肉体的にも精神的にも限界の状態で、チームを維持するのは並大抵のことではできません。アドベンチャーレースでは若くて体力のあるチームよりも、ある程度の年齢に達した経験を積んだ人たちの方が上手にレースをこなして、結果的に良い成績を出すことは珍しくありません。最後までチームを維持する人間力こそ、このレースの最大の魅力であり、見所だと思っています。
2015年、南オーストラリアで開催された「XPD EDITION 7 - FLINDERS RANGES - OUTBACK SOUTH AUSTRALIA」で撮影したものです。このレースは9月に開催されたもので、総延長750kmの距離をトレッキング、マウンテンバイク、シーカヤックなどで競いました。優勝チームはトータル、5日2時間8分でゴールしています。
 写真はフロム湖(Lake Frome)という、南オーストラリア州最大級の干上がった湖です。私がいたのは湖の端の方だったので塩に砂が混じってこういう色になっていますが、写ってる人たちがもうちょっと近くに寄ってくると足元が塩で白くなっていました。真ん中は塩で真っ白だったそうです。
 写ってるのはオーストラリアのチームです。この場所の近くまではクルマで入ってくることができますが、その道が大変な悪路でした。そのために、暗くなるとクルマのヘッドライトだけではとても抜けることはできない、日が暮れる前にここから撤退するようにとオーガナイザーから言われていました。
 それを聞きながらも、待っても待っても誰も来ない。ここでの撮影も、一度は諦めようかと思いました。オーガナイザーも、選手が来ないなら早く引き上げろと急かしてきます。そのとき、地平線にシミのような点が見えました。あれはきっと選手に違いない。けれど、そこから彼らが写真に写るくらい近くに来てくれるまで、まだまだ1時間以上もかかるんです。それを待ちながら、でもオーガナイザーは早く早くと急き立てるし、私も早く近くに来てくれないと日が暮れたら何も撮れなくなると思いながら、じりじりした思いでした。
 塩湖なので障害物がなく、そのおかげで最後の日の光で撮れた写真です。私がここで写真を撮れたのは、この1チームだけ。帰りの悪路も、もうギリギリという暗さでした。
エクアドルで開催された「Huairasinchi(ウアイラシンチ)」というアドベンチャーレースワールドシリーズの中の大会です。標高4300mからスタートして、ゴールの海まで8日間をかけて、トレッキング、マウンテンバイク、カヤックなどで約700kmを移動します。
 この写真は、川にかかっている橋から撮ったものです。ロープを渡っていくのもコースの一部。選手は自転車でバックの濁流の岸まで来て、同じ川ですけどもうちょっと流れの穏やかなところを泳いでワイヤーの所まで行って、そっからロープで川を渡る。だから自転車の装備のままでハーネスをつけています。川を渡ったら、私が立っている橋を渡って自転車の所まで戻って、またレースを続けます。
 2年ほど前ですが、アドベンチャーレースの途中で、犬があるチームから離れなくなって、一緒にレースを戦い抜いたというニュースが流れたことがありました。あのエピソードがあったのがこのレースでした。
2013年の「Costa Rica Adventure(コスタリカアドベンチャー)」というレースでのシーンです。これは「THULE Adventure(スーリー・アドベンチャー)」というスウェーデンのキャリアメーカーがサポートするチームで、この大会で優勝しました。
 ここはとにかく、すごい急坂でした。そこを、まずフレームには入っていませんがリーダーの女性が一人、前にいます。それからこの、歩いている人がいます。レースは序盤ですが、彼はもう疲労困憊で自分の自転車を押す力もないんです。そこでチームメイトが彼の自転車も押してくれています。そして最後尾に一人。
 彼らはフランス人とスペイン人とニュージーランド人で、サポートするのがスウェーデンの会社というとてもインターナショナルな構成でした。その中でチームワークを発揮している姿が、とても印象的でした。
 よく見ると自転車には大きなマップケースがついています。この地図を見ながらルーティングをして、次のチェックポイントを探していきます。オーガナイザーはここを通らせたいっていう意図でチェックポイントを設定することもありますが、チームによっては道に迷ったりして、想定したものとは違うルートからチェックポイントに着くこともあります。一日待っても、選手がいつ来るのか分からない。すごくいいロケーションで選手を待っていても、夕日が輝く美しい時間に来てくれるとは限りません。時には真っ暗になってから、ということもあります。
 だから、撮る写真のひとつひとつは割と奇跡的です。この時、このタイミングで、この人たちがいてくれた。私は、その偶然を記録に残しています。
2015年、オーストラリア北部のタウンズビルで開催された「XPD EDITION 8 - QUEENSLAND TROPICS - TOWNSVILLE」です。レースは11日間で650kmを、トレッキング、マウンテンバイク、シーカヤック、リバーカヤックなどで移動しました。
 これは大会二日目、タウンズビルの沖にある「Magnetic Island(マグネティック島)」という島です。1艇のSUPに二人が乗って、装備の入ったバックパックを背負ったまま海を漕いでいるところです。まるで油を流したように真っ平らな海に夕日が映える、美しい日でした。
 私たちメディアはこの日の最終のフェリーでオーストラリア本島に戻らないといけませんでした。選手たちはこのまま漕いで島を回り、翌朝本島にゴールします。戻ってきたときには乗り物が変わって、シーカヤックに乗っていました。
 選手たちは寝るのも食料も、すべて自分たちで賄います。途中で補給を受けられるので、食料はすべてを持っているわけではありません。が、チーム4人が入れるテントは携行が義務づけられています。とは言え、彼らが持っているのは、どう見ても4人が入れる大きさには見えません。軽量化のために小さなテントを用意することがほとんどです。大きな外国人選手が小さなテントにぎゅうぎゅう詰めになっている様子を考えると、いつも笑いがこみ上げてきます。同時に、彼らがテントを張って寝ることはないんだろうなというレースの厳しさも考えます。
■久保田亜矢(くぼた あや)
スポーツ・フォトジャーナリスト、フリー編集者。スノーボードやスキー、アドベンチャーレース、サバニなどアウトドアスポーツをメインに、選手のインタビューや大会レポートを執筆。数々の雑誌で活躍中。『Adventure Race』編集長。http://ayakubota.jp